分子運動性に基づく高分子物性の解析

パルス法NMRにおける緩和時間を測定することで分子運動性の解析を行っている。高分子の分子運動性を解析するときの核種として、含有量が多く検出感度も良いことなどから1Hがよく使われる。高分子のように1Hが密に含まれている場合、核スピン間には双極子相互作用がはたらくため吸収線幅は広がり、個々の化学シフトなどの微細な情報はその中に覆い隠されて観測されなくなる。このような状況では細かな分子構造の解析はできない代わりに、より大きな高次構造に基づく情報を得ることができ、物性との関連を解析することが可能となる。

高分子多成分系を解析する場合、試料全体で均一の分子運動性を持っている場合もあるが、異なる分子運動性を持つ場合も多い。このように不均一領域の分子運動性が異なる場合、その差に基づいて緩和時間が異なる成分が複数検出され、それらの緩和時間、成分の分率などから系内の情報を解析することができる。

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高分子の結晶構造 (左) と結晶性高分子のスピンスピン緩和曲線 (右)

例として結晶性高分子が挙げられる (上図)。結晶性高分子を融液から結晶化させると結晶、非晶、界面が存在する結晶構造を示す。これにパルス法NMRを適用してスピンスピン緩和シグナルを得ると、それらは 2 成分、または 3 成分でフィッティングすることができる。上の例は 3 成分でフィッティングした例である。緩和時間の短い順に分子運動性が低いため、これら 3 成分はそれぞれ結晶、界面、非晶からの寄与である。

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スピン拡散の模式図

核スピン系ではスピン拡散という現象が起こる (上図)。これはスピン間の双極子相互作用により、静磁場方向の磁化が拡散方程式に従って拡散する現象である。これを利用して分子運動性の異なる不均一領域の大きさを見積もることが可能である。上図に示すとおり、分子運動性の低い部分の核スピンに起因する磁化のみを消失させると、時間と共に周囲から磁化が拡散してくる。ハードドメインのサイズが大きいほど磁化の回復に時間がかかるため、これを利用してドメインのサイズを見積もることができる。

実際にブロック共重合体におけるミクロ相分離構造、結晶性高分子の結晶ラメラ構造、ゲル網目の不均一構造などに適用され、構造のサイズが定量的に解析されている。


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